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ふじようちえん

土曜建築学校の翌日、「ふじようちえん」に行ってきた。
というのも、土曜建築学校の懇親会でお隣になった方から、
明日ふじようちえんが一般見学会を開くと聞き、
翌日の予定を組み直して参加した。





設計:手塚建築研究所
施工:竹中工務店
ディレクション:佐藤可士和




「屋根と壁があれば、それは建築だ」と誰かが言っていましたが、
このふじようちえんはまさしくそのもの。
屋根と細い柱があるだけで、壁らしきものは全くなく、
外部とも木製サッシで囲われているだけで、スキンらしきものはほとんどない。





でも、この心地よさは何だろう。
適度に取られた庇の深さと、良い頃合いに低い天井のせいか。
屋根の中に入れば、心地よい風が吹いてくる。
楕円の建物に囲まれた園庭には、どの角度からもアプローチできるし、
建物の庇部分を駆け回れば、無限ループのようなかけっこができる。
これはまさしく遊具であり、園児が戯れる「木陰」のような建築だ。





建物の一部には、建て替え前からあった木々が残されていて、
屋上に上がってもその木陰が程よい空間を作っている。

建築写真と実際の建物との印象のギャップが大きい建築がある。
まさしくこの「ふじようちえん」もそれにあたる。
あおりを効かせた建築写真では、もっとエッジが立って鋭い建築に見えた。
しかし、目の前にあるリアルな建築は、包み込むような暖かさと優しさに満ちていて、
尖った所など全く感じられない。





見学会の中で、園長先生から建物の説明があった。
この建物の照明は、天井からぶら下がったスイッチのひもで入り切りする。
こういう施設では、集中管理でスイッチングする方が便利で良いと考え、
導入することも多いが、ふじようちえんでは、あえてアナログなスイッチを採用した。
照明をつけるのも消すのも、自分たちがやらないとできない仕組み。
園児たちにそのことを教えるための、そのための仕掛けである。

建物内部に点在している手洗いも、蛇腹の蛇口がついたものになっている。
間違えて使うと周りが水浸しになるが、そのことを園児が体験することが大事だと、
園長先生は仰っていた。
カランも同じで、ひねって開け閉めする従来型。
水道はひねらないと水が出ない。
閉めないと水が出っぱなしになる。
自動水洗が住宅にも採用されつつある今、
当たり前のことさえ知らない子供が増えているという。

経験することが生きる力になる、そう園長先生は仰っていた。





建築は人と絡み合って、初めてその本性を現す。
この建築は、園長先生の園児に対する強い信念と、
それを汲み取った設計者の想像力で出来上がったもの。
既成の教育施設の概念とは全く違う。
では、この建物は教育施設ではないか?

同様に、この建築は環境関連の賞は受賞していない。
では、環境親和性の低い建築か?

建築をスペックだけで語り始めると、息苦しいものになる。
それぞれの建築が持つ固有の本質、それが運営者、設計者とともに共有され、
生きた建築となっていく。

「ふじようちえん」は、生きた建築だった。
by kameplan_arch | 2008-09-30 11:34 | けんちく日記
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